TASAKI GINZA
閉じた空間の拡張性
真珠を中心としたジュエリーブランドであるTASAKIが、新たに立ちあげた機械式時計ブランドのための売り場となる空間をつくるプロジェクト。売り場は銀座店の地下1階にあった。天井高が低く、窓のない小さな空間だからこそ、そこで作り出すことができ感じることのできる高級感と居心地をつくりたいと考えた。天井面をステレスミラーとすることで、天井高を拡張し、フレーム状の場を重ねた構成をイリュージョナルな体験として実現している。
それぞれの商品を眺める適度なレイアウトや什器と、ゆっくり腰をかけて商談を行うスペースはミニマムな広さだが、ゆっくりとした居心地が感じられるように配慮している。ソファとテーブルは、内装に素材と規格を合わせることで、空間の一部としてデザインした。売り場も含んだ全体を、商談のための居室と感じることができる。
暗い空間を照らす明かりは、一部に、薄くスライスした天然石に強化ガラスを裏打ちする構造を開発し用いることで、ホワイトオニキスをバックライトで発光させる床壁仕上げとしている。商品と床面を照らすスポットライトも灯体が見えない設計とすることで、素材と商品が、自ら光を放っているかのような不思議な効果を生んでいる。
イメージを束ねるインテリア
TASAKIのブランドイメージを象徴する銀座本店の外装デザインは、宝石の多面的な輝きを、材質・サイズ・仕上げ・色などの組み合わせを少しずつ変化させたフレームの集合で構成されている。また、ここで発表される時計は、時計デザイナーの手によってTASAKIが扱ってきた様々な宝石と貴金属が組み合わされ、ラグジュアリーな煌めきと色合いを放っていた。フラッグシップモデルは、ウクライナにあるオデッサの階段の風景がモチーフとなっていて、ベゼルのデザインには階段上の造形が、統一した製品イメージとして転写されている。
外装・宝飾・製品のイメージを束ね、再構築されたブランドイメージのプロトタイプとして、インテリアデザインを試みることにした。外装のデザインコードであるフレーム構成を解体し、宝石と貴金属をオマージュした金属・大理石・木材を用いて、製品イメージをつたえる階段状の空間に再構成している。
階段の先に広がる地中海の“ミナモ”に見立てたステンレスプレートの特殊加工や、時計の螺鈿細工を表象する大理石の選定などを吟味し、宝飾と製品のイメージがインテリアとして表象するように工夫を行なっている。
ショーケース
売り場の設計に呼応したデザイン。宝石と貴金属をオマージュした金属・大理石・木材・ガラスなどの素材のフレームを積層することで、万華鏡をのぞきこむような商品との出会いの体験をねらった。銀座の店舗では実現しなかった。
Credit
躯体構造:RC造
所在地:東京都中央区
主要用途:店舗
延べ床面積:34.5㎡
設計期間:2015年4月〜2015年7月
施工期間:2015年9月〜2015年10月
設計監理:市川竜吾・望月公紀/建築築事務所
施工:太田勝也・芝裕平/GARDE
管理:長尾匡恭/Afys佳美成
調達制作:近藤悦生/旭ビルウォール
家具什器:太田勝也・芝裕平/GARDE
石材:中森圭輔/長野石材
写真:TASAKI
掲載
商店建築/2017年3月号/p174〜175