ラボラトリーHi

 有機化学分野の異なる2つ研究領域が1つの空間で共同作業する実験研究室の設計。デスクワークルームと実験室が、同じ建物の中の離れた場所に分かれているため、互いに情報交換しやすい環境にすることが命題であった。
 実験室では、有機溶媒を使用するウェットな環境の実験室と、デバイス作成を主とするドライな環境の実験室という異なる性質の空間をワンルームとして感じる空間にするため、ガラスのパーティションで区切り、視線が抜ける機器や棚の配置計画を丁寧に行った。共用廊下から実験室に入るときに、全ての機器の稼働状況と、人々のアクティビティが一度に見渡せるような配置にもしている。また、室内を縦横無尽に駆け巡る既存の配線ラックを照明にすることで、一体感を感じるように工夫もした。乱雑になりがちな大量の配線は、全て棚柱を通して机や棚に配線をし、機能を満たしながらも整理できる配慮をしている。
 デスクワークルームと実験室では、居住性と機能性のバランスを変化させ、しつらえる什器や内装の材質と設備のとりまわし方をそれぞれに設計した。

実験研究室のリノベーション
 実験研究室が抱える大きな問題は2つある。1つは、既存建物の構造にある。設備の重荷に耐えるために強固なコンクリートの「土間」であることが多く、オフィスのように、床下に配線配管できるシステム床ではない。そのため天井から無作為に垂れ下がる配線や配管が、場当たり的に置かれた複雑な機器を取り巻いて空間を圧迫し、決して快適な環境とは言えないのが現状だ。
 もう一つの問題が、研究者と実験目的を共有し、その達成のために最適な空間を提案できる建築家がいないことだ。その理由として、特に各領域が高度に専門化された最先端研究の領域では、建築家が実際の研究内容を理解した上で研究者と対等にコミュニケーションすることの困難さがある。それゆえ、彼らの要望を秩序ある空間としてまとめあげる仕組みを提案できず、結局は設計者が研究者の信用を得られないまま、建築の専門ではない研究者自らが研究環境をつくっていることが大半なのだ。
 一連の実験研究室のリノベーションプロジェクトでは、研究施設の使用意図や専門的な実験内容を理解した上で、一歩踏み込んだ密な情報交換を研究者と行うところから設計を始める。そして構造および設備が凝縮された天井伏と設置される実験機器とを、研究内容を考慮しながらシンプルな構成でつなぐ方法を模索した。研究室という特殊な分野にクロスフィールド的視点をもって建築家が介在することで、研究環境の安全性が担保され、効率良く快適な空間を実現する空間のスタディをこれらのプロジェクトで行っている。

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躯体構造:RC+PC造
所在地:宮城県仙台市
主要用途:実験研究施設
デスクワークルーム床面積:60㎡
実験室床面積:135㎡
設計期間:2013年10月〜2013年12月
施工期間:2013年12月〜2014年4月

設計監理:望月公紀・市川竜吾/建築築事務所
照明設計:岡安泉/岡安泉照明設計事務所
施工:豊嶋清一・後藤喜勝/ウエスト工房
家具:井上高文・坂本有香/イノウエインダストリィズ
什器:八木利一/美利
電気設備:矢作広明/力道建設
実験設備:佐藤真/DALTON
写真:太田拓実