くにたちの解修

住みながらつくる外部性
 7階建てマンションの最上階の住戸の改修。企業に勤める夫とデザイナーの妻の施主夫婦は、ここをプライベートな暮らしの空間とすると共に、来客を迎える場や仕事場としても使うことを希望していた。また、将来的に家族が増えたときのことも考慮して、流動的な暮らしのかたちを受け入れる器が求められた。
 施主と共に選んだこの部屋はマンション最上階に位置し、三方をバルコニーに囲まれたほぼ正方形のプランが特徴だった。景観条例によって周辺建物高さが低く抑えられているため、窓からは近くの並木などから、多摩丘陵や富士山も望むことができる。
 基本的なプライベートな暮らしを充足し、住みながらつくり続けていくための下地となる空間をつくることを目指した。既存の設えを解体し必要な修理を施すことで、限られた予算の中で、既存空間の可能性と住まい手の技術を活用した住空間を実現している。ベッドルームと水まわりの動線を工夫することでギャラリーの使われ方を自由にしている。ギャラリーは、リビングとダイニング、来客を迎える場、夫婦の仕事場を兼ねているが、それらを状況に合わせて無理なくレイアウトできるように、見えがくれをつくる2枚の壁面を残して既存の壁面を解体した。室内を荒っぽい仕上げと大きなスケールで屋外的に設えることで、外壁は間仕切り壁のようになって、ギャラリーは半内部的な雰囲気でバルコニーと連続した居場所のように感じることができている。
 グランドレベルから離れて閉じた空間だが、プライベートな暮らし以外の様々な行為を受け入れることができるプランニングと設えによって、都市空間の変化にもつながった外部性を獲得し直そうと試みている。

 見えがくれをつくる2枚の壁面を残して、4部屋を解体して1つの大きなギャラリーをつくった。既存の壁は壁紙をはがした状態をとりあえずの仕上げとしている。残った下紙とパテ処理が平面構成の絵画のように、場に表情を与えている。これから住みながら塗装することで、どのように変化させていくかを選んでいくのも楽しい。

 バスルームまわりでは、一部既存のまま残した床仕上げが、ざらざらとしたタイル仕上げと隣り合っている。古材の板に合わせてつくられた洗面台と、御影石をビシャン加工したボウルからは手触りと重みを感じる。
 広いバルコニーにつながる半内部空間のギャラリーと、洗面室を仕切る引き戸は、大きなガレージの引き戸や壁のように見えるスケールのものとして設えた。

 バスルームは、タイルの割りつけと壁天井の左官仕上げの色味や風合い、ガラスや建具のおさまりから器具の選定まで、入念に設計した。この住宅をこれから住みながらつくっていく上で、デザインのためのひとつのベンチマークとなる、最も設らえられた空間。
 壁紙をはがした壁面は、暮らしながら自由に塗装をすることができる。ベットルームだけは、あらかじめ施主の希望する淡いエメラルドグリーンに塗装した。

 切断した既存の間仕切り壁は端部をていねいに補修し、コンセントプラグやダウンライトも既存のものを再利用している。ギャラリーの床仕上げは既存フローリングを研磨して塗装を施している。補修された元の間仕切りの跡が、広い空間にうっすらと領域をつくるような効果を生んでいる。窓からは、近くの通りと公園のサクラ・イチョウ・ヒバの並木が見え、季節ごとに移ろう景色が見えるはずだ。窓からの見えを邪魔しないように、カーテンレールは壁ぎわの天井につけた。
 室内よりも広いバルコニーが三方を囲っている。水まわりが住まい手の基本的なプライベートな暮らしを支えるように計画しながら、バルコニーと一体となって半内部的に使えるギャラリーを大きくとっている。

Credit

躯体構造:RC造
所在地:東京都国立市
主要用途:兼用住宅
施工床面積:110㎡
バルコニー面積:128㎡
設計期間:2017年6月〜2017年9月
施工期間:2017年10月〜2017年12月

設計監理:市川竜吾・山口菜月/建築築事務所
施工:内藤智江・さとうまおこ/ROOVICE
石材加工:厚見吉則/デコル
木材加工:米山康晴/GALLUP
器具等:大貫栞/フォンテトレーディング
写真:長谷川健太