綾里津波のあいだ展〜東京

 綾里地区研究会による書籍「津波のあいだ、生きられた村」(鹿島出版会、2019年)の出版を記念し、東京で開催された展覧会の計画。綾里地区研究会は、東日本大震災以降、岩手県大船渡市三陸町綾里綾里地区において、津波災害の変遷を軸にして、地域の歴史・都市・防災・社会などについて研究・活動を行なってきた。これまでに作成・収集された図面・写真・資料・模型・映像等の展示レイアウトと、展示什器のデザインを行なった。
 ここでは、綾里地区研究会の研究・活動の一環として2015年と2016年に綾里地区で開催された「津波と綾里博物館展」に展示された実測図面や大判写真を再展示している。また、その後作成された綾里地区研究会による教訓集「小石浜の教え」と、綾里地区震災復興コミュニティ広場計画「はじまりの広場」の資料なども一緒に展示し、関連書籍の販売とギャラリートークを行う場を設けた。短い展示期間の中で4回企画されたギャラリートークごとの視点によって、展示を多義的に読み解くことができるよう配慮した。

モノと知の循環をデザインする
 綾里は、明治三陸津波(1896)、昭和三陸津波(1933)の経験を継承し、まとまり・ハナシカタリ・復興地・無意識の高台移転・気仙大工・祭りというような、地域社会の仕組みによって、東日本大震災(2011)の津波による被害をはっきりと逓減させていた。そしてまた震災後、その仕組みを暮らしや生業のなかから立て直す試みとして教訓集「小石浜の教え」がつくられ、2015年と2016年の2度にわたって、歴史と津波の博物館展が行われている。綾里ではモノと知が、空間を循環しながら時間をこえる仕組みによって、津波までもが暮らしの一部として生きられていた。この展示も過去に展示された図面・写真・資料・模型・映像等に、書籍を要約したパネルなどを加えて展示を構成し、今後も、綾里や他の地域での巡回展を想定している。
 この展示計画も、綾里をめぐるモノと知の循環の中に位置づけることはできないだろうか。天板に使ったシナ合板は、この後、綾里での展示時に「津波と綾里博物館展」の設えを解体した材とともに製作する展示什器の材料として必要な、材種・サイズ・枚数を使用している。脚部に使った巻きダンボールは、今回の展示物や材料を綾里と各地へ送るための梱包材として使い、再びスツールなどの什器に構成して使用するのに必要な材質・数量を採用した。綾里で製作する展示什器は、現地で調達できる材料と工具を使って容易に組み立てができるように、あらかじめ設計している。モノと知の循環に接木するようにそれぞれの場をデザインすることによって、津波のあいだを生きてきた地域社会の仕組みに接続しようと試みている。

 

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会場:建築会館1階ギャラリースペース
床面積:約106㎡
準備期間:2019年12月
開催期間:2020年1月9日〜12日
主催:綾里地区研究会(饗庭伸+青井哲人+池田浩敬
+石榑督和+岡村健太郎+木村周平+辻本侑生+山岸剛)
展示写真作品:山岸剛
会場デザイン:市川竜吾
パネル・チラシデザイン:中野デザイン事務所
記録写真:市川竜吾

助成:トヨタ財団2018年度社会コミュニケーションプログラム
「記憶の分有-災害にレジリエントな社会形成に向けて-」