和さび

交差点のインテリア
 幹線道路の交差点に面した小さな寿司屋の店舗。握り寿司は、江戸の後期に街の中で売り歩かれ、庶民に気軽に食べられていた屋台料理に起源がある。その後、衛生面への配慮や冷蔵技術の発展によって、徐々に店を構えた御膳料理へと変わっていき、現在のような料理屋文化をつくりあげている。ここでは、交差点という立地ととても小さな室内空間に寄り添うことで、屋台のように気軽な店構えをつくりながら、外への広がりも感じとれる上質で落ち着いた室内の居心地をつくろうと考えた。
 この店をとりまく交差点と建物全体や地下鉄の入り口など、並んで見えてくるもの大きさと材質に配慮している。室内奥の壁面を建ちならぶ建物の外装のようなレンガタイルで仕上げ、内外は透明な欄間を大きくとったヒノキの壁と格子戸のパーテーションのように間仕切ることで、外部空間を室内に引き込んでいる。ここで食事をすることが、交差点のインテリアの中でくりひろげられる出来事のように、新鮮な体験として感じられる。

遊閑材のスポリア
 建築に関わるさまざまな材料の生産と流通の途中で利用されずに放置されていたり、余剰として生産されてしまう「遊閑材」をリサーチし、積極的に活用した。大規模建築のために生産された余剰ロットのレンガタイル、開発したが利用されずに保管されていたテラゾータイル、木挽のあずかり材として保管されていた銘木などは、それぞれに丁寧に吟味と生産がされていて、豊かな価値と文脈を持っていた。こうした材料を拾いあげ、もとの価値と文脈を受け継ぎながら重層的な意味をつくりあげること(スポリア)ができた。生産と流通の途中で滞ってしまっているさまざまな材料を、あらたな資源として有効に活用することから、材料生産の仕組みをときほぐし、これからの時代の流通のエコシステムをつくり直すことができる。

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躯体構造:RC造
所在地:東京都新宿区
主要用途:飲食店舗
床面積:28㎡
設計期間:2021年4月〜2021年8月
施工期間:2021年9月〜2021年10月

設計監理:市川竜吾・望月公紀・細川裕美/建築築事務所
施工:佐藤正徳/hitoReno工務店
建具・家具:坪原成一朗/坪原木工
木材調達:浅野純平/森未来
テラゾータイル:中森圭輔/長野石材
レンガタイル:堀口建男・津久浦政慶/スカラ
ドアノブ:藤田雄介/戸戸
椅子:松山祥子/カッシーナイクスシー
写真:平松徹也