ハウス M

都市に棲む
 都心の幹線道路沿いの住宅。敷地は新しく建設された都道によって薄くスライスされ、奥行きが浅く間口が広くなっている。そこに3枚の片流れの屋根を重ねることで3層の住空間をつくった。屋根の勾配方向は階ごとに交互に重ねられており、1階は北側の前面道路に対して庇を垂れ下げることで人を誘い込むような親密な雰囲気を作っている。2階は道路に対して庇を跳ね上げるような勾配とすることで、都市空間にめいっぱい開いてリビングが歩道にまで広がったように感じる。
 勾配をもった屋根は同時に、上階のスラブ=地面となっている。各階で勾配に対してそれぞれの場の使い方に合わせて、床を張ったり、踏み石を設えたり、手すりやベンチを設置することで、小さな居場所が集まってひとつの暮らしの空間がかたちづくられる。
 住まい手は、透明な立面によって大通りに開き、都市と積極的に関係していくことを望んでいた。都市の中に住宅を建てるのではなくて、都市と直接関係していく、都市に棲むような住宅を目指した。住まい手と共に、時間をかけて考えつくったこの住宅は、暮らしながら工夫され、つくり続けられていく、都市におけるわたしたちの「棲み家」だ。

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主要構造:鉄骨造
所在地:東京都豊島区
主要用途:専用住宅
敷地面積:62.87㎡
建築面積:39.10㎡
延べ床面積:84.84㎡
設計期間:2013年4月〜2014年10月
施工期間:2015年2月〜2015年12月

設計監理:乾久美子/乾久美子建築設計事務所
市川竜吾/市川竜吾設計事務所
湯の迫史・遠藤郁・イヘドゥン/東京藝術大学乾久美子研究室
構造設計:鈴木芳典/TECTONICA INC.
技術監修:金田充弘/東京藝術大学金田充弘研究室
倉重正義/東京藝術大学非常勤講師
施工:工藤雄太・富井育宏/工藤工務店
鉄骨:中村雄一/雄建工業
家具:石岡鉄平/アングロ
PC:山本徹・塩川勝良/ネツレン
写真:阿野太一
アクソメ図版:市原昇・沼田優花

掲載
新建築 住宅特集/2016年4月号
住宅建築/2016年6月号
ja/2017年夏106号
新建築 住宅特集/2020年9月号、等