光が丘の家

風景として住宅をつくる
 都心近郊の住宅街に計画された4人家族のための住宅。明るく開放的なことと、しっかり閉じた居場所という相反した状況を、木造在来工法を拡大解釈することで実現した。6面をしっかり仕上げ面で囲まれたヘヤと、そのヘヤどうしに挟まれた様々な奥行きのスキマが、開口部を介して重なって現れることで、室内とまちが連なる風景を織りなす状況をつくっている。外壁面につくられたスキマにも収納・水場・ロールスクリーンなど生活に必要な設備や小さな場所を設えている。日々そこに、モノやヒトが生活の気配として垣間見えることで、外壁面は外部からは「まちの内装」となって、道ゆく見知らぬ誰かにとっても、自分にとって身近な風景として感じられないだろうか。
 室内は、なるべく多くのヘヤとスキマとの行き来とその向こう側のヘヤとの関係の中で、日々の生活がされていくように設計している。ここでは、家とまちの間を行ったり来たりして生活するのではなくて、家を含むまち全体をヘヤとスキマとして行き来しながら生活がされていく。風景の中に住んでいるような体験。

・・・要するに世界は私のまわりにあるのであって、私の前にあるのではない。
-モーリス・メルロ=ポンティ(1966).眼と精神 みすず書房

私のまわりの世界の”いれもの”
 敷地となった住宅街は、ミニ開発が繰り返され、低層マンションやメーカー住宅に生産緑地などがパッチワークされてできている典型的な都心郊外のスプロール市街地である。法制度、不動産価値、住宅規格などの理由によって、敷地ごと、互いに空間を閉じることを前提としてできている環境で、ことさらに空間を開くのではなくて、閉じた空間の世界との接続性について考えたいと思った。
 つながって見えるものでも実際に開いているのではなくて、世界とつながっている空間とはどういったものなのだろうか。前衛芸術家の赤瀬川原平は、カニ缶を開封し中身を取り出して、缶の外側からはがしたラベルを内側に内向きに貼り直すこと(宇宙の缶詰)で世界を缶の中に閉じこめて見せた。例えばそんなふうに木造建築自体のもつ構造の特性を利用することで、建築自体の物質性を後退させて、世界との新しい関係と、まちの風景の中に住んでいるような感覚を得られないだろうか。そのときこの住宅は、私のまわりの世界の”いれもの”となる。

映像について
 「風景に中に住んでいる」と言ったとき、その体験はけっして静止画では捉えられない。風景は連続的で、動的な体験だ。友人から、住宅とそこでの生活をモチーフにしてモキュメンタリー(フィクションをドキュメンタリー映像のように演出する映像手法)を撮影したいという誘いを受けた。施主は学生時代に夫婦そろって演劇をしていたこともあって、友人を招いたある日の様子を映像に撮影することにした。

Credit

主要構造:木造
所在地:東京都練馬区
主要用途:専用住宅
敷地面積:101.45㎡
建築面積:59.96㎡
延べ床面積:99.77㎡(施工:115.92㎡)
設計期間:2011年11月〜2012年9月
施工期間:2012年10月〜2013年3月

設計監理:市川竜吾・近藤太郎/市川竜吾設計事務所
設計協力:山田浩子・後藤壮大/SEA Design
施工:山田隆由貴/山田建設
写真:市川竜吾
航空写真:Google Map

映像「A day in House・HIKARIGAOKA」
出演:Inoue’s
演出・撮影・編集:黄川田勇太
音楽:Daisuke Miyatani
美術:市川竜吾
助手:近藤太郎・遠藤えりか