自由が丘の住宅

街のスケールに倣う
 緑道に面した店舗空間を併設した兼用住宅。輸入雑貨やファブリックを扱う大きめの店舗空間・事務所スペース・たくさんの商品在庫を保管するストレージ、オーナー住宅・庭のような外部空間というように、大きな床面積の確保と、それに伴い3階建ての建物が求められた。一方で、周辺の心地よい建物密度の環境に見合ったスケールと雰囲気の建築とすることも大切だと感じた。そこで、ここでは3階建ての平面を前後に雁行して並ぶ間口の狭い2棟の建物のように分割して、立面を各層ごとに分割することで、大きな建物を小さな空間の集合として感じさせられるよう試みている。
 手前と奥の棟の間は、供用部となる中間領域としての階段室とバルコニーがはさまっている。1階の店舗には、持ち込まれる予定の木製什器とスチールワークの棚に合わせたサッシと建具を設え、2階は少し天井高をおさえて、周辺建物の空間スケールにも近い親密な空間をつくった。3階は手前と奥の棟を雁行した2つの空間として、使い分けながら一体的に使えるようにして、室内と連続的に使える大きなルーフバルコニーは目立たない裏手に設えている。また3階は、空中を飛ぶ鉄骨梁と下がり天井に照明を設置して、住空間に適した柔らかな間接光とすると共に、緑道からのスケールと見上げの風景に配慮したデザインとしている。

変化をうけとめる
 今後の家族構成の変化や、店舗運営上の使い方の変化に合わせて、各室の用途を変更できるように階段室・バルコニー・外部空間を、室の接続に自由度を持った中間領域としている。奥の棟の手前に、店舗と住戸の入り口へのアプローチを設けることで、緑道からの適度な引きをとって、出入りの体験に、奥行きと見えがくれをつくっている。これらの空間は、日々の仕事と暮らしの一部として、室内外の行き来を豊かな体験とできるように、余剰空間と動線・視線の抜けを多く用意している。
 1階の緑道に面した空間は輸入雑貨やファブリックを扱う店舗となり、2階はスタジオ・商談スペース・オフィス、3階はオーナー住戸というように、それぞれ全く別の使われ方をされるが、各階の床壁天井は構造をあらわしとして、できる限り統一した材料による構成にしている。その上で、店舗部分も建築工事の設えをそのまま使うことが想定されていたので、店舗のイメージにあった仕上げの色味やサッシと建具のデザインの調整を行なった。同様に、2、3階もそれぞれの完成当初の使われ方に合わせ、仕上げ色と開口部のデザイン・証明・天井高の設定など、それぞれの使われ方に合わせた調整を行なっている。各室の用途の変更を受け止めうるニュートラルな状態の範疇を超えないように注意した。それぞれに違う部分の変化を受けとめながら、場の交換を可能にする全体性を持っている。

自由が丘の低地・川岸・街
 自由が丘は、1027年に地名の由来となる自由ケ丘学園が開校する前は、衾(ふすま)と呼ばれ、かつての水田と竹ヤブと、駅周辺にあった衾沼という沼地を開発してつくられた街だ。そのため、現在の地名には反して、周辺地域から比較すると低地となっている。敷地の面する道は1971年に九品仏川を暗渠化してつくられた緑道で、13mの道幅の中央に緑地帯をもち、九品山浄真寺の付近から自由が丘駅の南側を抜けて、東急大井町線の緑ヶ丘駅まで約1.6kmにわたってのびている。車両の通行は少なく、自由が丘駅付近を中心に両側には衣料品店などが並び、この地区では唯一の遊歩道として、居住者と買い物客などの歩行者が多く行き交う散策路となっている。
 緑道沿の川に面した敷地は、かつては川岸の歩道に対して間口が5〜7m程度の木造2階建てくらいの住宅が建ち並んでいた。緑道となった後は、そういった建物を改修して前面で店舗が営まれ、奥や隣接する建物が居住に用いられるようになったことで、平坦で歩きやすく見通しのきく散策路沿いに、街の暮らしの雰囲気が感じられ、小さな店舗が住宅の間にまばらに並ぶ閑静な商業エリアが形成されてきた。しかし近年は、駅前商業エリアの拡大と緑道沿いの住宅地開発に伴い、隣接する敷地が統合され、10mの建物高さ制限いっぱいの3階建てで間口の広い専用店舗、複合商業建築、集合住宅などに徐々に建て替わっている。住宅街に比べるとスケールが大きくマッシブな建物が並び、駅前地域に似通った雰囲気の商業エリアと、都内では見慣れた住宅街の風景に置き換わりつつある。

地図:自由が丘付近地図(1909年)陸地測量部発行1/10000地形図に現状を記載

Credit

主要構造:鉄骨造
所在地:東京都目黒区
主要用途:店舗兼用住宅
敷地面積:196.53㎡
建築面積:111.90㎡
延べ床面積:293.01㎡(施工:327.73㎡)
設計期間:2014年1月〜2014年11月
施工期間:2015年1月〜2015年9月

設計監理:市川竜吾・望月公紀/建築築事務所
峯田健・恩田恵以/スタジオアーキファーム
構造設計:大野博史・大川誠治/オーノJAPAN
施工:守谷務・望月昌・鈴木裕司/エヌアイ建設
家具:八木利一/美利
写真:鳥村鋼一