フィールドワークと設計

 住宅「ハウスM」は、東京藝術大学乾久美子研究室によるフィールドワークの成果「小さな風景からの学び」をつかって、都市住宅を設計するプロジェクトで、乾久美子と研究室の学生メンバーとの協働で設計から工事監理までを行った。日本中をフィールドワークして集められた人とモノの心地よい居場所の風景を、類型化した情報を、暮らしにまつわる小さな居場所として、重ねたり、つなぎ合わせたりして、物語を編集するようにして住宅全体を構成している。そうすることで、出来上がった空間は、都市の風景とつながった居場所となるのではないかと考えた。住まい手の開放的なキャラクターも相まって、建築が暮らしのものごとと一体となり、地域ともつながりながら、生き生きとした暮らしが展開されている。
 暮らしのシーンを描いたスケッチ、居場所の集合したカタチを想像するポンチ絵、つくろうとする場をとらえる言葉と対話、試みにひとつの住宅をたちあげてみた模型、原寸大のモックアップや材料による実験など、様々な媒体によってフィールドワークと設計を結ぶスタディを試みながら、どのような居場所をつくるとよいかを探っていった。フィールドワークから設計へ、そして設計からフィールドワークへというように、建築の周りと建設の前後にある状況の観察と設計とを、今また、相互に創造的に結びつけることができないだろうか。フィールドワーク「小さな風景からの学び」によって発見された空間言語が、どのように設計「ハウスM」の空間へと翻訳されたのかを紐とくスライドショーを作成した。

アーカイブ
 フィールドワーク「小さな風景からの学び」のギャラリー間での展示から、設計過程は、東京藝術大学での2回のスタジオ発表会「ハウスM-講評会1」「ハウスM-講評会2」で発表と公開討論を行なった。工事中の様子は、乾久美子研究室のブログにその一部を掲載している。建設までのプロセスから、フィールドワークと設計の関係を考察し、講演会「フィールドワークと設計-多くの方言と向き合う」でレクチャーを行った。

Credit

設計期間:2013年4月〜2014年10月
施工期間:2015年2月〜2015年12月
設計監理:乾久美子/乾久美子建築設計事務所
市川竜吾/市川竜吾設計事務所・研究室助手
湯の迫史・遠藤郁・イヘドゥン/東京藝術大学乾久美子研究室
構造設計:鈴木芳典/TECTONICA INC.
技術監修:金田充弘/東京藝術大学金田充弘研究室
倉重正義/東京藝術大学非常勤講師

建築写真:新建築社・乾久美子・市川竜吾・沼田優花
模型:湯の迫史・遠藤郁・イヘドゥン
模型写真:市川竜吾
スライドショー:市川竜吾