C街区計画

共有の庭としての街
 住宅街区の設計。心地よい住環境とは、地域社会とそこに暮らす人々が、長い時間をかけて蓄積してきた環境への欲望が、自然や風土と相まってカタチとなった環境ではないだろうか。小さく古い家や、狭く雑然とした道であったとしても、そこには、我々の暮らす街を生き生きとした住環境とにしている、何らかの確かな〈質〉がある。街路のかたち、暮らしと自然の関係、気候と地形への対応、家の外観、場の使い方など、長い時間をかけてつくられてきた〈構造〉が、確かにそこに存在している。
 敷地のある地域は、1.農家に由来する中庭型の屋敷が群をつくっている古い集落、2.その周辺に広がった田畑、3.それらが近年のミニ開発によって住宅に置き換わった街区、という3種のエリアがパッチワーク状に展開している。中でも特に、古い集落に由来するエリアは、街全体がそこに暮らす人たちの「共有の庭」のように、ゆるやかに心安く使われている。それは都市計画によらない自然発生的な住居の集合が生んだ空間の〈質〉だが、だからこそ、新たにつくられる街区にも確かに醸成したい、豊かな地域の暮らしの〈質〉である。
 4タイプの敷地をレイアウトして街区全体を構成することとした。4タイプの敷地は、その組み合わせと並べ方によって、古い集落に由来するエリアにある街路と庭を含む住空間のタイポロジーを、道と2〜4つの戸建て住宅の〈群〉によって生み出すことのできる設計となっている。

 この地域の街路には、タマリ(溜まり)、ヌケ(抜け)、マガリ(曲がり)によってつくられる道と庭の中庸の場が、そこかしこに点在し連なっている。そこは日々、駐車スペースや通り抜けの歩道などに利用されると共に、庭先の菜園や子供の遊び場となり、何にも使われていない余白としてあることでも、暮らしの空間と風景の豊かさをたたえている。これらの場は、長い時間をかけてつくられてきたこの地域の住環境の確かな〈質〉を生み、街をかたちづくる固有の〈構造〉として生きづいている。
 新たに計画されるこの街区でも、開発計画として合理的な動線計画と適切な敷地面積を考慮しつつ、地域固有の場の〈構造〉を解釈し、街区計画・住宅計画とまちづくりガイドラインに適用することとした。敷地内の庭のしつらえや住宅の設計は、各々の住まい手によって自由にバラバラに扱われる。そのとき、地域固有の場の〈構造〉と、そこにある確かな〈質〉を浮かび上がらせることができるように、「補助線」または、「伏線」として街路と敷地が機能するように、街区全体を計画している。
 住宅計画についても、各々の住まい手の自由なふるまいを、場の設計と暮らしの変化で受けとめることのできる空間形式と構法を提案した。

Credit

計画概要:住宅街区
所在地:長野県千曲市
面積:約9600㎡
道路面積:1911㎡(19.8%)
公園面積:460㎡(4.8%)
住宅敷地面積:150〜230㎡
総戸数:36戸
設計期間:2018年5月〜2018年7月
調整期間:2021年1月〜2021年3月

設計:市川竜吾・伊藤光俊/建築築事務所
写真:市川竜吾
図版:伊藤光俊/nicchi