綾里津波のあいだ展〜神戸

 綾里地区研究会による書籍「津波のあいだ、生きられた村」(鹿島出版会、2019年)の出版を記念し、神戸で開催されたシンポジウムに合わせた展覧会の計画。綾里地区研究会は、東日本大震災以降、岩手県大船渡市三陸町綾里綾里地区において、津波災害の変遷を軸にして、地域の歴史・都市・防災・社会などについて研究・活動を行なってきた。これまでに作成・収集された図面・写真・資料・模型・映像等の展示レイアウトと、展示什器のデザインを行なった。
 ここでは、綾里地区研究会の研究・活動の一環として2015年と2016年に綾里地区で開催された「津波と綾里博物館展」に展示された実測図面や大判写真を再展示している。また、その後作成された綾里地区研究会による教訓集「小石浜の教え」と、綾里地区震災復興コミュニティ広場計画「はじまりの広場」の資料なども一緒に展示し、関連書籍の閲覧の場を設けた。この展示は、2020年1月に東京の建築会館1階ギャラリースペースで行った1回目の展示を引き継いだ巡回展として計画されている。

日常と非常のあいだ
 展示会場となった「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」のロビー空間の設えと、動線空間ならではの展示のレギュレーションを拡大解釈した。エントランスからの人の流れと隣接する階段と上階から視線に配慮し、展示品をレイアウトしている。短期間で設営と撤収を行うことが求められたため、ロビーに既存のパーテションと什器を全てを利用・転用する計画とし、石張りの床目地をモジュールにして、展示空間を構成している。現場で簡単に加工できる板段ボールのみを新たに購入・搬入し、既存のパーテションや什器と組み合わせることで展示台や展示壁として造作し、板段ボールは会期終了後、展示品の梱包材などに再利用した。
 展示品を入れてきた箱や余ったパーテションなども、会場の倉庫に一旦収納することはせず、展示空間を構成する設えとして活用した。通常時のロビー空間の「日常」の延長と感じられると同時に、仮設の避難所のような「非常」の空間性も感じられるよう意図している。設営の簡便性と空間の仮設性を極限まで高めることで、日常と非常の「あいだ」として、展示空間をつくった。

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会場:阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター1階ロビースペース
床面積:約154㎡
準備期間:2021年6月
開催期間:2021年7月20日〜8月15日
主催:綾里地区研究会(饗庭伸+青井哲人+池田浩敬
+石榑督和+岡村健太郎+木村周平+辻本侑生+山岸剛)
展示写真作品:山岸剛
会場デザイン:市川竜吾
パネル・チラシデザイン:中野デザイン事務所
記録写真:市川竜吾

助成:トヨタ財団2018年度社会コミュニケーションプログラム
「記憶の分有-災害にレジリエントな社会形成に向けて-」

本展示は、当初は、研究対象地であった大船渡市綾里地区において巡回展を行う計画であったが
新型コロナウィルスの感染拡大を受け、開催時期と場所を変えて、実施された。